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広島高等裁判所 平成10年(ネ)426号 判決

控訴人

江本俊信

右訴訟代理人弁護士

中村覚

吉川五男

田畑元久

高村是懿

被控訴人

右代表者法務大臣

臼井日出男

右指定代理人

内藤裕之

長尾俊貴

桂幹夫

橋本健

真田幸信

伊藤敏夫

松本良英

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は控訴人に対し、一三〇万円及びこれに対する平成三年三月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決の「第二 当事者の主張」に記載するとおりであるから、これを引用する。

原判決一一頁八行目の「同年」を「平成元年」と改め、同二三頁三行目の末尾に「国税通則法八七条三項の規定は注意的な訓示規定に過ぎず、」を加える。

第三証拠

本件記録中の原審及び当審証拠関係目録記載のとおりである。

理由

一  当裁判所は、当審における管理の結果を考慮しても、控訴人の本訴請求は理由がないと判断するが、その認定判断は、次のとおり削除、付加、訂正するほかは、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二五頁一〇行目の「、同4(三)」から同一一行目の「ついて」までを削る。

2  同二六頁三行目の「本件訴訟は、」の後に「税務署長のした本件更正処分が違法であることを理由として、」を、同八行目の「判決」の後に「民集第四七巻四号二八六三頁」をそれぞれ加える。

3  同二七頁七行目の「第一九、第四〇、第五七号証」を「第二〇、第四〇、第四二、第五七、第六三、第八七号証」と、同八行目から同九行目にかけての「(第一、二回)」を「(原審第一、二回及び当審)」とそれぞれ改め、同一一行目の「原告は、」の後に「白色申告書により、」を加える。

4  同二八頁六行目の冒頭から同八行目の末尾までを次のとおり改める。

「(二) 岩国税務署の係官による控訴人に対する税務調査手続の経緯は次のとおりである。

(1)  岩国税務署の梅本修係官(以下「梅本係官」という。)は、昭和六三年四月一四日、控訴人の店舗を訪れて、過去三年分(昭和六〇年分ないし昭和六二年分)の税務調査を行う旨を告げたところ、控訴人は、前回更正処分に係る審判手続が国税不服審判所に係属しているにもかかわらず税務調査を行うのは不当であるとして、これに抗議をするなどして、実質的な調査は行われなかった。

(2)  控訴人の属する民商は、同年四月一八日、同年五月二四日、同年六月八日、岩国税務署に対し、控訴人に対する本件の調査について抗議をするなどの交渉を行った。

(3)  梅本係官は、同年五月一〇日、右店舗を訪れて、本件の税務調査を行う旨を述べたが、控訴人は、右(1)と同様に抗議をするなどして、実質的な調査は行われなかった。

(4)  岩国税務署係官は、同年六月一四日、前回調査で確認された控訴人の仕入先である株式会社桑原商会外数社に対し、取引金額等について書面照会を行う反面調査に着手した。

(5)  梅本係官外一名は、同月二三日、控訴人の店舗を訪れて、控訴人に本件調査を行う旨を述べたが、税理士でない民商の事務局長ら数名が立ち会っていたため、守秘義務とのかねあいから第三者の立会いのない状態での帳簿等の提示を求めたが、控訴人は、これを拒み、また、反面調査に着手したことに抗議するなどして、実質的な調査は行われなかった。

(6)  民商は、同年七月一日、岩国税務署に対し、右調査は民商への組織破壊攻撃であるとして、交渉を行い、また、控訴人は、同月四日、岩国税務署長に対し、内容証明郵便で、反面調査を行ったことについて謝罪を求めるなどした。

(7)  岩国税務署の古谷浩治係官(以下「古谷係官」という。)が、同月、梅本係官の右調査を引き継いだ。

古谷係官外一名は、同年八月二九日、右店舗を訪れ、控訴人に対し、第三者の立会いのない状況で帳簿等を提示するように協力要請をしたが、控訴人は、これを断った。このため、実質的な調査は行われなかった。

(8)  古谷係官外一名は、同年九月二一日、右店舗を訪れたところ、控訴人は、段ボール箱の中に帳簿等を用意していたが、民商事務局員ら数名が立ち会っていたため、古谷係官は、控訴人に対し、守秘義務とのかねあいから第三者の立会いのない状態での帳簿等の提示を求めた。しかし、控訴人は、これを拒み、実質的な調査は行われなかった。

(9)  古谷係官外一名は、同年一一月二一日、右店舗を訪れ、控訴人に対し、帳簿調査に応じる意思があるか否かを確認したところ、控訴人は、その意思がない旨を述べたので、古谷係官は、推計課税による修正申告の慫慂を行おうとしたが、控訴人はこれを拒み、修正申告の慫慂は行われなかった。

同日、控訴人が岩国税務署を訪れた際、成瀬統括官同席の下で、古谷係官は、控訴人に対し、修正申告の慫慂を行い、推計による所得金額及び税額を各年度に分けて告げ、これは同業者の比率を用いた推計によるものであり、控訴人の帳簿を見せてもらうのが一番であるから期限を切って、第三者のいない状況で帳簿を見せていただきたいと協力を求めた。

(10)  控訴人は、右修正申告には応じなかったため、岩国税務署長は、同年一二月二日、本件更正処分を行った。

(三) 右のように本件更正処分を推計課税の方法により行った実質的な理由及びその算定根拠は次のとおりである。」

5  同二八頁九行目の「(三)」を「(1)」と、同行目の「そこで」から同一〇行目の「その」までを「岩国税務署係官による右仕入先に対する反面調査の」とそれぞれ改める。

6  同二九頁五行目の「(四)」を「(2)」と、同行目及び同七行目の各「右(三)」を各「右(1)」と、同九行目の「(五)」を「(3)」と、同一〇行目の「岩国市農協」を「岩国市農業協同組合」と、同末行の「山口銀行」を「株式会社山口銀行」とそれぞれ改める。

7  同三〇頁二行目及び同六行目の各「前記(三)」を各「右(1)」と、同七行目の「ことを」を「ものと」と、同八行目の「山口銀行」を「株式会社山口銀行」と、同行目から同九行目にかけての「さほど変化がなかった」を「やや増加している」と、同一〇行目の「岩国市農協」を「岩国市農業協同組合」とそれぞれ改める。

8  同三一頁一行目の「(六)」を「(4)」と、同行目の「前記(三)」を「右(1)」とそれぞれ改める。

9  同三二頁一行目の「確定申告」の後に「による営業所得額」を加え、同五行目の「調査の過程で、」を「所得税法二三四条に基づく所得税の税務調査において、第三者の立会いを認めるか否かを含め、質問検査の範囲、程度、時期、場所等の実施の細目については、法令上明確な定めがないが、その性質にかんがみると、社会通念上相当な限度で、権限ある税務職員の合理的な裁量に委ねられているものと解されるところ、本件調査の過程において、岩国税務署係官が控訴人の所得税調査に当たり、税理士でない民商の職員ら第三者の立会いの排除を控訴人に求めたのは、当該調査が、控訴人及び取引先の秘密事項にもわたる可能性があり、守秘義務に触れるものと考えたためであるというのであるから、右裁量判断には合理性があるというべきであり、」と改め、同七行目の「から、」の後に「岩国税務署係官において、控訴人の取引先等に対する」を加え、同行目の「理由がある」を「合理性があるというべきである」と改め、同末行の「そして、」の後に「本件更正処分における推計方法の合理性についてみても、」を加える。

10  同三三頁二行目の「の異常さ」を「が不自然に変動していること」と改める。

11  同三四頁三行目の「の異常さ」を「が不自然に変動していること」と改め、同五行目の「調査の必要性」の後に「及びその方法の合理性」を加え、同一〇行目の「同一の」から同一一行目の「から、」までを「税務署長の行う所得税の更正は、所得金額を過大に認定していたとしても、そのことから直ちに国家賠償法一条一項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、税務署長が資料を収集し、これに基づき課税要件を認定判断する上で、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をしたと認め得る事情がある場合に限り、右違法の評価を受けるものと解すべきであるところ、本件においては、その調査の必要性及びその方法の合理性、推計課税の必要性及び合理性が認められることは前示のとおりであり、右処分が」と改める。

12  同三三頁六行目の「原告が主張するような」を「控訴人は、本件更正処分は、岩国税務署長が控訴人の入会している民商に対する攻撃の一環として行ったものである旨を主張し、証人佐々木春行はその証人尋問で、控訴人本人は、その本人尋問(原審第一回)で、それぞれその旨供述する。しかしながら、右各供述に係る」と、同七行目の「事情」から同行目の末尾までを「事実は、具体性に欠け、これをもって、本件更正処分が民商に対する攻撃の一環としてされたものであるとは認めるに足りない。」と、同八行目の「そして」を「また」とそれぞれ改める。

13  同三六頁八行目の冒頭から同三七頁二行目の「関して、」までを削る。

14  同三九頁一行目の「等」を削り、同四行目の後に行を改めて次のとおり加える。

「2 本件更正処分に係る異議申立手続において、異議審査庁である岩国税務署長に、国税通則法一一一条に違反した事実があるか否か、また、これが国家賠償法一条一項にいう違法との評価を受けるものであるか否かについて、以下検討する。」

15  同三九頁五行目の「次に、」を削り、同行目の「第一〇」から同行目の「第三八」までを「第一二、第一四、第二二、第二五ないし第三八、第四〇」と、同六行目の「第七〇号証」を「第七〇、第八七号証」と、同七行目の「(第一、二回)」を「(原審第一、二回及び当審)」と、同一〇行目の「損害保険」から同末行の「などから」までを「昭和六一年三月三日付けで、昭和五七年分において所得計算の基本となる帳簿書類の記帳、作成がされておらず、同年分において、原始記録の保存がされていなかったことを理由として」とそれぞれ改め、同末行の「取り消され、」の後に「同月五日付けで、」を加える。

16  同四〇頁一行目の「課税」の後に「による前回更正処分を」を加え、同二行目の「異議申立てを経て、」を「同年五月一日付けで異議申立てをし、同年八月六日付けで異議決定がされたことから、同年九月五日付けで」と、同八行目の「口頭意見陳述」から同九行目の「申立書等」までを「同日、本件更正処分の処分理由を明らかにするように求める更正理由告知請求書(甲七)、本件の税務調査に係る文書一切の閲覧を求める文書閲覧請求書(甲八)、異議審査手続において、口頭で意見を述べる機会を付与するように求める陳述申立書(甲九)及び右処分に係る納付すべき国税の全額について徴収の猶予を求める徴収の猶予の申立書(甲一〇)」とそれぞれ改める。

17  同四一頁七行目の「六日ころ」を「六日」と、同九行目の「該当しない」を「該当せず、国税の徴収の猶予をする必要があるとは認められない」と、同一〇行目の「不採用にした」を「不採用にし、同日付けで、控訴人に対し、その旨通知した」とそれぞれ改める。

18  同四二頁二行目の「段ボール箱三箱分の納品請求書」を「納品書及び請求書」と、同三行目の「実額」から同五行目の末尾までを「そのようなやり方は口頭審理にはなじまないとして、右期日の審理を打ち切った。」とそれぞれ改め、同五行目の後に行を改めて次のとおり加える。

「(六) 同年六月一六日、小田統括官及び高杉上席調査官を聴取者として、第三回口頭意見陳述の期日が開かれた。控訴人は、前回と同様に、持参した納品書及び請求書を一枚ずつ読み上げ始めたので、小田統括官は、そのようなやり方は口頭審理にはなじまないとして、各年分ごとの取引先別の合計金額を述べるように求めたが、控訴人は納得せず、右期日は打ち切られた。」

19  同四二頁六行目の「(六)」を「(七)」と改め、同行目の「高杉上席調査官」から同八行目の末尾までを削り、同一〇行目の「代理人」の後に「(民商の事務局員ら)」を加える。

20  同四三頁一行目の「(七)」を「(八)」と、同九行目の「(八)」を「(九)」とそれぞれ改め、同行目の「高杉上席調査官」から同一一行目の「そして、」までを削り、同一一行目の「一一日、」の後に「書面をもって、」を加える。

21  同四四行目五行目の「(九)」を「(一〇)」と、同七行目の「(一〇)」を「(一一)」とそれぞれ改め、同行目の「開かれた」の後に「高杉上席調査官外一名を聴取者とする」を加え、同八行目の「期日は打ち切られ、」を「高杉上席調査官は、そのようなやり方は口頭審理にはなじまないとして、止めるように求めたが、控訴人は、そのようなやり方がいけないのであれば、教示をするように主張したため、その場に居合わせた」と、同九行目の「発言した」を「発言し、右期日は終了した」と、同一〇行目の「(一一)」を「(一二)」と、同一一行目及び同末行の各「原告ら」を各「控訴人」とそれぞれ改める。

22  同四五頁四行目の「(一二)」を「(一三)」と、同八行目の「取消しの」から同九行目の「判断し」までを「この時点で、本件更正処分の理由を開示し、控訴人が審査請求した場合、間をおかずに、右内容の異議決定をすると、控訴人としては、原処分の理由に対するものとは異なる理由で審査請求に対処する必要が生じ、無用の混乱を招き、控訴人の権利の救済も遅れると判断し、控訴人に本件更正処分の理由を開示しないこととし」とそれぞれ改め、同一一行目の「検討するに、」の後に「異議審査庁である岩国税務署長は、本件更正処分に係る異議申立てがされた平成元年一月二五日の翌日から起算して三か月を経過した同年四月二五日を過ぎても、同異議申立てが係属しているのに、遅滞なく、控訴人に対して審査請求ができる旨の教示をしないまま、同年一二月二〇日、異議決定を行ったことからすれば、岩国税務署長の右行為は、国税通則法一一一条一項、二項に違反するものというべきである。そこで、これが国家賠償法一条一項にいう違法との評価を受けるものであるか否かについてみるに、」を加える。

23  同四六頁四行目の「ことの重大性」を「必要性」と、同五行目の「一一日ころ」を「一一日」とそれぞれ改め、同六行目の「第二回」の前に「原審」を加える。

24  同四七頁三行目の「納品請求書」を「帳簿書類を提示せず、納品書及び請求書」と改め、同四行目の「手続きをやみくもに紛糾させ、」を削り、同六行目の「被害者側の関与が大きい」を「控訴人の右不適切な対応によるところが大きいことが窺われる」と、同八行目の「もっともである」を「一応の合理性が認められる」と、同一一行目の「紛糾を極めた」を「右」とそれぞれ改める。

25  同四八頁六行目の判決の後に「民集二六巻一〇号一七九五頁」を加え、同九行目の「の場合」から同行目の末尾までを「に係る所得金額を更正するに際して、所得税法一五五条二項が更正の理由を附記することを義務付けたのは、」と改める。

26  同四九頁一行目の「前記のとおり」を「白色申告では」と、同二行目の「ある以上、」を「あり、両制度の規定の差異にかんがみると、青色申告の更正処分についての理由附記を義務付けた趣旨が本件の白色申告に係る更正処分についても当然に及ぶものと解することはできない。そうすると、」とそれぞれ改める。

二  以上の次第で、控訴人の本訴請求は理由がないからこれを棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当である。

よって、本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民訴法六七条一項本文、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川波利明 裁判官 布村重成 裁判官 金子順一)

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